スパイ教室感想(ネタバレ有)♯14

 スパイは常に嘘をつく―。

 

 この間、読んだ「スパイ教室」を開いて最初に目にした文章。この一文による疑心暗鬼とワクワクが、本作最大の魅力なのだと思います。

 ということで、この間読んだ『スパイ教室』について。ここ数年ぐらいラノベ買っていなかったのですが、シャニマス絡みなのかトマリ先生の作品がちらほら目にする機会があってその中に紛れ込んでいたのが<花園>のリリィちゃんだったわけです。制服のデザインとご立派なものが大変素晴らしい訳で……リリカルライブで上がったテンションも合わさって勢い任せでに購入。存分に楽しませてもらいました。著者の竹町先生とトマリ先生に感謝。

 

 粗筋は、世界最強のスパイ・クラウスが不可能任務(一度失敗した任務の通称)を遂行するために集めた7人の落第手前の少女でチーム<灯>を結成、一か月の指南と共同生活の先に任務へ挑むという話。陽炎パレスでの共同生活のルールとして

◆7人で協力して生活すること

◆外出時に本気をだすこと

という、意味深なものが二つ。

 クラウス先生は伊達に世界最強(これ自体は以前、不可能任務を達成したことで師匠から勧められたようなもの)を名乗るわけではなく本物の天才で、感性そのものが一般からズレているようなチート。故に人にものを教える適正ゼロ、まともな指導ができない。リリィは毒無効体質を利用して毒による脅迫で<灯>を解散させようとするも失敗。結果として少女たちは生き残るため、任務を成功させるために、クラウス先生を倒すことを目的とした実戦形式の授業に挑み続ける羽目になります。

 少女たちは、リリィ・エルナ以外は最終決戦まで名前が出てきません。だいたい髪の色で表記されています。そしてエルナは金髪表記。しかし、紹介PVやピンナップにはそれらしき娘はいない……初めて読んでいた内は、髪の色が切り変わる系の二重人格キャラか、それとも鏡花水月でも仕掛けられてるのか、ピンナップがネタバレ系で変装でもしているとか……などと7人を小一時間ぐらい見比べていました。リリィが毒無効体質による毒使い・エルナ自身もとんでもない不幸体質かつ不幸感知能力と異能持ちだったのも、そこらへんの妄想に拍車を掛けています。

 先生の風呂に特攻したり、リリィは先生に買収されていたり、町のならず者巻き込んでの一大作戦も難なく躱されたりしながらも経験値を重ねていく少女たち。そしてついに一か月後の任務決行日へ。目標は敵国に渡った生物兵器の奪還もしくは破壊。そして、かつて最強のスパイチームにして先生の家族ともいえる<焔>が失敗・壊滅した因縁の任務でもあります。

 立ち塞がるのは<焔>のメンバーにして裏切者、敵国に寝返ったギード。先生の師匠であり、戦闘能力だけでいえば、先生を上回る怪物。しかも陽炎パレスに盗聴器仕掛けていて、情報は筒抜け状態。

 当然、少女たちは全くと言っていいほど歯が立たず、灰桃・アネット、赤髪・グレーテ、黒髪・ティア、白髪・ジビア、蒼銀・モニカ、・茶髪・サラの順に戦闘不能になり、銀髪・リリィもまた……。あれ、エルナは一体……と、私がぐるぐる頭を回している中、ギードの目的は先生の抹殺であること・曰く馬鹿弟子は仲間を絶対に裏切らない・見捨てないから少女たちを助けに(つまりギードに殺されに)来る筈だということが語られます。と、思ったら通信室乗っ取って即座に「助けに行かない」発言する先生。ここから怒涛のネタ明かしが始まります。

◆落第寸前の少女たちを集めた=ギードの情報網に引っかからない存在だったから

◆外出時に本気をだすこと=陽炎パレスの盗聴からの少女たちのスペック等の情報流出を最小限に抑える為

◆7人で協力して生活すること=7人と言ったな?アレは嘘だ。8人で7人生活しているように見せかて騙す為。

◆初日は確かに7人の少女だけだった=エルナは度重なる不幸な事故により到着が遅れたから。

 こうして一か月練り上げた騙し合いの果て、荷物に隠れて侵入していたエルナの凶刃がリリィの度胸とブラフを用いて、ギードを貫く。まぁ先生の師匠であるギードがこの程度で死ぬわけもなく……一か月の騙し合いの成果はギースの反応速度0,1秒低下。たかが0,1秒、されど0,1秒……。

「―極上だ」

 かつて埋めることのできなかったその刹那が消えた今、生徒たちを助けに来た先生はようやく師匠へと追いつき、そして無事ミッションコンプリート。

 エピローグは、リリィを始めとした少女たちが『<灯>の存続』を要求した『授業の続き』を実行。しかも、先生の大切な絵(<焔>をイメージしたもの)を人質にするリリィ。速攻で先生脅迫しようとした挙句解毒剤忘れたり、適当な啖呵をギード相手に切ったり……振り返ると大分イイ性格してますよ、リリィちゃん。

 しかし大切だった絵を踏み抜き、少女たちを翻弄し形勢逆転。<灯>を大切なモノだと認識した先生だったのでした。

 

 大掛かりな叙述トリックが肝。特にエルナの存在が提示されてからアレコレ思案が巡るのが楽しいですね。この手のネタは二次元でライトノベルだからこそ妄想の幅が広がり、十二分に魅力があるんじゃないでしょうか。漫画とか映像になったら、どんな感じで工夫が凝らされるのか気になりますが。あとは冒頭でも書いた、『スパイは常に嘘をつく―。』この一文がやっぱり秀逸。作中の主要人物は、結果的に全員(ギードですら)スパイにあるまじきレベルで情に厚い印象な訳ですが、この一文のせいで読み終えるまで、もしかしたら致命的なタイミングで裏切られたりするんじゃなかろうかとか気になって仕方ない訳で……。

 都合上、ピックアップされたのがリリィ(登場自体は多いけど掘り下げは微妙?)・エルナ・クラウスあたりだけなので、続刊でほかの6人娘の動向が気になりますね。本編で披露されたのコードネームは『花園』『愚人』だけなので、何処がどう判断して設定したのか(紹介サイトやピンナップで他の6人が『忘我』『愛娘』『夢語』『百鬼』『氷刃』『草原』なのはわかりますが、意味深なのが多すぎるw)、リリィの毒無効やエルナの不幸感知のような所謂異能持ちだったりするのか……。ちなみに今のところ、リリィを除くと、優美ながら口を開けばアホの子と言いたくなるような『夢語・ティア』・冷静な『愛娘・グレーテ』が良い感じに好きです。でもリリィが一番好きかもしれない。

 本編中、ことあるごとに「不幸……」と呟くエルナですが、

◆構成の都合上、紹介サイトにいない

◆巻頭ピンナップにもいない

◆当然、特典画像にもいない

◆つまり第二巻のカバーガール権利がない(リバーシブル等の可能性はありますが)

とまぁ、ある種の自虐ネタだったりするのでしょうかと思ったり思わなかったり。挿絵見た感じや口調がかわいいお嬢様なので、カラーの全身絵とかすごい気になるんですけどね。

 

 ということで、久しぶりのライトノベルのお買い物は大当たりだったというお話でした。